明治国際医療大学附属鍼灸センター便り  2001年8月1日

 

 鍼灸臨床の現場より  第10号


 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大学へ

 

肝臓の機能回復に鍼灸治療を

 江川雅人
 

1.1分間に1500mlもの血液を処理する内臓最大の臓器・・・肝臓
 肝臓は正常成人男性で1300g、女性で1100gの重さがあり、1分間に1500mlもの血液を処理します。肝臓の働きは、胆汁を生成して脂肪を消化したり糖をグリコーゲンとして蓄えるなどの消化機能、体内に入った薬物、異物、毒物に対する解毒機能、赤血球の処理や血液凝固因子の産生などの血液に関する機能、など多岐に渡っています。

2.肝臓は狙われている
 一方、肝臓はアルコールや食べ過ぎによる脂肪の蓄積や種々の薬物により傷害されます。また、ウィルス、特にB型、C型のウィルス性肝炎は時に慢性化(慢性ウィルス性肝炎)し、肝硬変や肝癌などへ進展します。肝機能の低下は、肝臓の腫大の他、血液検査上でALT値やAST値の上昇となって示されます。

3.B型慢性肝炎に対する鍼灸治療例
 
Sさんは44歳、働き盛りの男性。4年前にB型慢性肝炎と診断され、インターフェロン療法などの治療を受けましたが、依然としてALT値やAST値は各々400〜500(正常値は5〜40)と高く、入退院を繰り返す毎日でした。唯々、安静を命じられる毎日、Sさんは思い切って鍼灸センターを訪れました。
 明治国際医療大学附属病院に入院しての鍼灸治療が始まりました。初診時に私たちはSさんの体を診察して驚きました。背中の強い筋緊張(こり)、足の冷え、精神的なイライラ感等々。肝炎との長い闘いはSさんを心身共に疲れ果たせていたのです。鍼灸治療は、「肝」に関連するツボとともに、こりや冷えを和らげる治療を続けました。その効果が現れ始めたのは治療を10回程続けた頃。それまで安定しなかったALT値やAST値も次第に低下、退院後も続けた治療により遂に正常値にまで改善したのです。

4..肝炎に対する鍼灸治療の可能性
 Sさんに、鍼灸治療は何故効いたのでしょうか。鍼灸治療のウィルスに対する直接的な作用は明らかではありません。しかし鍼灸治療では、肝炎を、こりや冷えや精神的な不安定をも含めた全身の症状として捉えて治療方法を決定します。したがって肝炎に対する鍼灸治療は、心身の変調を是正し、肝炎ウィルスに対する体の抵抗性を高め、肝機能を回復させる自然治癒力を導き出すことにあるようです。