鍼灸臨床の現場より  第12号


     

 

   

 

 

    

       

   

    

    

    

     

    

 

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胸郭出口症候群の鍼灸治療

越智秀樹

 
1.胸郭出口症候群とは
 
腕の痛みやしびれ、肩凝り、手の冷感、などの頚から腕や手に様々な症状が出現する疾患です。腕を上げたとき(吊革につかまったとき)、コンピューターを長く行う動作などに特に症状が悪化したりします。20歳から30歳ぐらいのなで肩の女性に多い症状です。原因としては頚部と腕の付根に位置する 部分、ここは上肢に分布する神経(腕神経叢)や血管(鎖骨下動脈)が流れています。その神経や血管は斜角筋(前斜角筋・中斜角筋)や小胸筋といった筋肉に挟まれながら存在しています。そのため斜角筋や小胸筋が緊張してしまうと、これらの神経と血管を圧迫してしまい腕がしびれたり、手の血流が悪くなって冷たくなったりするのです。鎖骨下動脈が圧迫されて血行障害がおこると、腕・手指が冷たくなったり、チアノーゼがおこって紫色になったりします。また腕神経叢が圧迫されると、痛みや痺れ、感覚異常、発汗異常など様々な症状が生じます。その障害される部位によってさらに細かく、斜角筋症候群、肋鎖症候群、過外転症候群に分類されます。

2.胸郭出口症候群の分類
◆ 斜角筋症候群
 前斜角筋と中斜角筋の間の神経が圧迫される病気です。原因には、頚肋と呼ばれる肋骨様の骨が、もともと前斜角筋と中斜角筋の隙間は狭いのですが、体の疲労や姿勢の変化、筋肉の肥大や痙攀、などが関与して血管や神経を圧迫することもあります。手の薬指、小指に知覚異常や痛みが発症し握力も弱くなります。30代の、なで肩の女性に多い病気で、長く肩を下げていると症状が悪化します。
◆ 肋鎖症候群
 鎖骨と肋骨の隙間で、血管や神経が圧迫された時におこり、指先に軽い知覚障害とチアノーゼを起こします。疲労・姿勢などの変化で、肩が下がると発病しやすいようです。
◆ 過外転症候群
 胸の前面にある小胸筋という筋の下や、第1肋骨と鎖骨の間で、神経や血管が圧迫されるとおこり、指先に血行障害、知覚障害がおこります。万歳をするように腕を上げる(強く外転する)と圧迫が強まります。壁を塗る作業などのように、腕を頭より上げた状態を、しばらく続けた時などに発病しやすいと言われています。
 腕が痺れる、痛いと言った症状はこれらの他に五十肩や頚椎椎間板ヘルニアなど様々な病態があります。発症状況、痛みの状態などの問診、視診、触診、検査などを行い、どこに問題があるかを絞り込み治療することが重要となります。
 
3.胸郭出口症候群の鍼灸治療
 
鍼灸治療は、圧迫を加えている筋に対して緊張を除去し血液循環の改善を目的として行います。また治療は上肢の神経の消炎鎮痛にも大きく影響を与えます。下に示したグラフのとおり、鍼灸治療を1週に1回行うと徐々に症状の軽減が認められます。 
 また「頚や肩の体操」も 筋力アップ、筋肉の血行促進のため重要です。鍼灸師から、何のために、どういうことをするかという情報の説明を十分受け、首から肩、腕の筋肉のストレッチや 血液循環を良好にする体操を行います。また日常生活での姿勢(仕事でのデスクワーク時や立ち仕事時)が原因となるため、あわせて鍼灸師より指導を受け、鍼灸治療とともに患者自身が普段の生活で意識して改善を 試みることが重要なポイントとなります。