明治国際医療大学附属鍼灸センター便り  2002年7月1日

 

 鍼灸臨床の現場より  第17号


     

 

     

 

   

  

   

    

   

 

    

  

 

  

   

   

 

 

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アレルギー性鼻炎の鍼灸治療

仲西宏元


1.
アレルギー性鼻炎とは 
 近年、アレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患が増加傾向にあります。その要因として、生活様式の変化(住環境の欧米化)、食生活の変化(動物性タンパク質と脂質の関係)、スギ花粉飛散数の増加、大気汚染やストレスの増加、産業構造の変化(室内滞在期間の延長)、副鼻腔炎(鼻閉)の減少による鼻粘膜へのアレルゲンの接触機会の増加、などが挙げられています。また、ここ数年の研究によってアレルギー疾患のある家系では、抗原に対する高IgE抗体の存在の報告があり、アレルギー疾患と遺伝に関する研究が盛んに行われています。特に花粉症に関して、スギに対する特異的IgE抗体の決定を行っているのが第6染色体上(遺伝子は11対の常染色体と1対の性染色体)にあると報告がなされました。
 また、アトピー素因(IgE抗体が産生されやすい体質)に関しても第11染色体が関連しています。このようにアレルギーに関しては様々な要因が関係し、複雑な病態を形成していると言えます。  アレルギー性鼻炎の症状として、発作性再発性のくしゃみ・水性鼻汁・鼻閉、そして眼の症状が多く、時に眼の痒み・異物感・涙流が認められます。また、発症機序は I 型アレルギーによるものが多く、スギ花粉など特定抗原に対して肥満細胞に固着したIgE抗体と特定抗原が結合することによって引き起こされ、肥満細胞が存在する粘膜(鼻粘膜、眼結膜、咽喉頭など)に即時型の過敏反応が起こります。

2.鍼灸医学とアレルギー性鼻炎 
 鍼灸医学では過敏性鼻炎の中の、「鼻竅(びきゅう)」と言われています。主症状は「水性の鼻汁で量が多く、くしゃみを伴い、鼻の痒みがある」と表現されています。また、東洋医学で言うところの臓腑のバランスが崩れ症状が出現します。特に臓腑の肺・脾・腎の異常が認められます。鍼灸治療はこれら臓腑のバランスを整えることを第一の治療とし、その他の不定愁訴に対しても治療を行います。

3.鍼灸治療例
 症例(S・K 25歳、女性)18歳の頃から、アレルギー性鼻炎によるくしゃみと鼻閉があり、スギ花粉の多い春先や寒冷刺激、特に夏のクーラーによって症状の悪化をみました。症状が強いときには点鼻薬や内服薬を使用しました。また、強い症状のため、食欲不振や不眠も訴え、鍼灸治療を希望して来院しました。診察すると、鼻炎症状ばかりでなく、足の冷えや肩凝りといった症状も認められました。鍼灸治療は鼻炎に対する治療ばかりでなく、こうした随伴症状に対しても施術を行いました。
 治療開始直後から鼻炎症状は軽減し、4週間後には投薬の必要もなくなりました。治療期間中、2回程風邪を引いた為に一時的にくしゃみが強くなりましたが、症状は漸次軽減しました。

 治療15回(治療期間12日間)の後に症状はほとんど消失しました。その後も、春先にはわずかに症状が再燃しますが、不眠や食欲低下を招くほどには悪化せずに経過しています。