明治国際医療大学附属鍼灸センター便り  2002年11月1日

 

 鍼灸臨床の現場より  第18号


     

 

     

 

   

  

   

 

  

   

   

 

 

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鍼治療は糖尿病の予防に役立つか?

 石崎直人


1.
糖尿病の原因と発病の徴候 
 糖尿病は遺伝的な要因を持っているひとに、肥満やストレス、過食や運動不足などが加わって発病するといわれています。  糖尿病の発病は突然起こるものではなく、完全な糖尿病になる前に徴候が現れている場合が多いのです。糖尿病発病前の徴候は、空腹時や食後の血糖値が正常よりすこし高いといったことでわかります。また、血糖値を下げるインスリンというホルモンは、糖尿病の人では不足するのですが、糖尿病の発病前には逆に過剰に分泌されていることが多く、高インスリン血症といわれます。これは糖尿病を起こしやすい人は通常の量のインスリンでは血糖値が下がりにくくなってくるのでその分インスリンを多く出そうとするためです。  このように糖尿病の前に血糖値が少し高めであったり、インスリンの分泌が過剰であったりする状態を「耐糖能異常」といわれ、これらの人は将来糖尿病を発病する可能性が高いので、糖尿病予備軍ともいわれます。 

2.耳の鍼が耐糖能異常を改善した症例 
 鍼治療が糖尿病予備状態といわれる耐糖能異常の患者さんによく効いた例があります。その方は、56歳の女性で、出産をきっかけに徐々に体重が増えて肥満傾向にあったため、肥満を治療しようとして鍼灸をうけました。この方は血糖値もやや高めで、インスリン分泌も多かったので耐糖能異常と診断されていましたが、3ヶ月間で20回の鍼治療の後に、再び検査したときには血糖値やインスリンの状態がほぼ正常になっていました(図1)。  この方の鍼治療に使った治療は耳の鍼に通電する治療でした(図2)。耳の鍼は肥満の治療によくつかわれますが、この症例では、むしろ血糖値やインスリンの方がよく改善され、鍼治療が糖尿病の予備状態を正常に近づけるのではないかと考えられました。