f 低血圧症とその鍼灸治療

明治国際医療大学附属鍼灸センター便り  2003年1月1日

 

 鍼灸臨床の現場より  第19号


     

 

     

 

   

  

   

 

  

   

   

 

 

 大学へ

 

 

低血圧症とその鍼灸治療

      
1.
低血圧症の原状 
  「低血圧症」は良く耳にする言葉ですが、診断や治療に関しては、あまり知られてはいません。けれども血圧が低い人では、朝の寝起きが悪い、めまい、立ちくらみといった症状により生活の質:QOL が低下しているとの報告が有ります。自律神経の異常により起立時の血圧が急激に低下するシャイ・ドレイジャー症候群といった疾患もありますが、実際にはこうした全身疾患の発症頻度は少なく、いわゆる低血圧の病態は不明瞭なままなのが現状です。 低血圧に対する正しい知識の普及の為に大阪医大.小児科の田中英高先生が中心になって、低血圧に関するホームページが立ち上げられ、月に1万件にも及ぶアクセスが有り、現在の低血圧への関心の高さを物語っています。(詳しくは、
www.inphs.gr.jpをご覧下さい)

2.起立性調節障害 
 低血圧症に関しては、1958年に起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation,以下O.D.)が我が国で初めて報告されました。O.D.は思春期前後の小児に見られる低血圧症で、発症は春から夏にかけて多く見られ、特に女性では成人まで症状が多く残るとされています。  その後、1990年代になって成人に見られる体位性頻脈症候群または起立不耐症と言われる疾患も注目されるようになりました。  このような症状が起こるメカニズムは、正常な人では起立時の反射的な静脈の収縮により下半身に血液が貯まってしまうのを防ぎますが、O.Dや体位性頻脈症候群では、この反射が弱いため下半身に血液が貯まってしまい、心臓が全身に送る血液量が少なくなります。その結果、立ちくらみやめまい等色々な症状が起こる、と考えられています。

3.低血圧症状に対する鍼灸治療
 
鍼灸医学における低血圧症に対する治療では、単に血圧値だけに注目するのではなく、冷感、頭痛の有無、食欲の変化、といった全身の症状とあわせて総合的に判断し、治療点や刺激法を決めます。多くは血と関連する肝臓や脾臓の病として治療されることが多い様です。

起立性調節障害(O.D.)診断基準(O.D.研究班による)
[大症状]
 A) 立ちくらみあるいはめまいを起こしやすい。
 B) 立っていると気持ちが悪くなる。ひどくなると倒れる。
 C) 入浴時あるいは、いやなことを見聞すると気持ちが悪くなる。
 D) 少し動くと動悸あるいは息切れがする。 
 E) 朝なかなか起きられず、午前中調子が悪い。
[小症状]
 a) 顔色が青白い  b) 食欲が不振  c) 強い腹痛をときどき訴える
 d) 倦怠あるいは疲れやすい
 e) 頭痛をしばしば訴える    f) 乗物に酔いやすい
 g) 起立試験で脈圧狭小16mmHg以上
 h) 起立試験で収縮期血圧低下21mmHg以上
   i) 起立試験で脈拍数増加1分21以上      
   j) 起立試験で立位心電図のTUの0.2mv以上の減高、その他の変化


※ 判定:・大症状1.小症状3 ・大症状2,小症状1 ・大症状3以上で、器質性疾患を除外できた場合をODとする。