1.アメリカでの鍼灸医療
アメリカ、イギリス、日本などの文明国の医療事情には共通点がみられます。その共通点とは、慢性疾患や心の病の増加であり、医療費の高騰です。医学の進歩発展、公衆衛生の普及、生活の改善などにより急性疾患は減少しましたが、生活習慣病などの慢性疾患や心身症、うつ病などの心の病は増加の一途をたどっています。これらの病気の治療には近代西洋医学では限界があるとして伝統医学の導入がはかられるようになりました。 それが代替医療(alternative
medicine)あるいは補完(相補)医療(complementary
medicine)と呼ばれている医療です。アメリカではalternative
medicine(代替医療)、イギリスではcomplementary
medicine(補完(相補)医療)と呼んでいますが、最近では近代西洋医学の足りないところを補うもう一つの医療ということで両者を結合し、complementary
and alternative
medicine(CAM:代替・補完(相補)医療)と呼んでいます。CAMの主要な医療が鍼灸医学です。アメリカでは年々鍼灸医療を利用する人が増加していると報じられています。そして医療費の抑制につながるのではないかと期待されています。
2. WHO(世界保健機構)による伝統医学の評価
1978年、WHO(世界保健機構)は「西暦2000年までにすべての人に健康を、(Health
for All by the Year
2000)」と宣言し、伝統医学を積極的に活用することを提案しました。このことが大きく影響し、世界各国で鍼灸医学が取り入れられるようになりました。今や鍼灸医学は世界の約110ヶ国で行われており、日本、中国の伝統医学から世界的な伝統医学になりつつあります。
表はWHOが1996年に提案した鍼灸の適応症のリスト(草案)の一部です。
鍼灸の適応疾患リスト(WHO草案、1996年)
(1)運動器系疾患:上顆炎(テニス肘)、頚部筋筋膜症、肩関節周囲炎、慢性関節リウマチ、捻挫と打撲、変形性膝関節症など
(2)消化器・呼吸器系疾患:下痢・便秘、潰瘍性腸症候群、急性扁桃炎、咽頭炎、喉頭炎、慢性副鼻腔炎、気管支喘息など
(3)疼痛疾患:頭痛、片頭痛、緊張型頭痛、坐骨神経痛、扁桃腺摘出術後疼痛、抜歯疼痛、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛
(4)循環器系疾患:狭心症を伴う虚血性心疾患、高血圧症、低血圧症、不整脈など
(5)泌尿・産婦人科系疾患:月経困難症、分娩誘導、月経異常、女性不妊、男性不妊、インポテンス、遺尿症、尿失禁など
(6)その他の疾患:近視、肥満、メニエール症候群、片麻痺、うつ病、薬物中毒、アルコール中毒など
|
3.NIH(国立衛生研究所)の鍼に関する合意形成声明書
NIHパネルによる鍼に関する合意声明(NIH
Panel Issues Consensus Statement on
Acupuncture,1997年11月5日)の中には、鍼治療が手術後および化学療法による吐き気と嘔吐、悪阻(つわり)、および手術後の歯痛に有効であるという明確な科学的根拠があることを確認し、科学的データは少ないながらも痛みに関連した状態、薬物中毒、脳卒中後のリハビリテーション、頭痛、月経痛、テニス肘、線維性筋痛(一般的筋肉痛)、腰痛、手根管症候群、喘息は有効である可能性があるとし、更にこれらに限定されるものではないと記されています。
この声明書は、アメリカ政府の公式の声明書ではありませんが、信頼性の高い声明書です。この中に鍼治療の効果が明確に記載されたことは大きな意味があります。
|