明治国際医療大学附属鍼灸センター便り  2000年4月24日

 

 鍼灸臨床の現場より  第6号


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大学へ

 

 

変形性膝関節症の鍼灸治療

越智秀樹


 1.変形性膝関節症の症状は 

 病気の発症機序は、関節軟骨にかかる負担が持続的にかかると関節軟骨基質であるプリテオグリカンの変動や軟骨細胞の変化が生じ、その変化が周辺部にも影響を及ぼし骨形状の変化や関節包の炎症をきたします。変形性膝関節症の膝痛の特徴は運動時痛であり、特に椅子から立ち上がろうとしたり、歩き出そうとする動作の始まりに痛みの症状が出現するのが特徴的です。また正座を行う時や、しゃがみこむ時に初めて痛みに気づくこともあります。また階段の昇り降り、特に降りるときに関節の痛みを感じたりもします。病気が進むと、膝を完全に伸ばせない、完全に曲げられないなどの運動制限がでてきます。初期には疼痛のため動きが制限されますが進行した症例では骨の増殖や、関節包、靭帯などの軟部組織の弾性が低下し膝関節のスムーズな動きができなくなります。関節の炎症症状があるときは関節内に水がたまる関節内水腫が確認できることもあります。また膝関節の疾患をおこすと大腿部の前面の大腿四頭筋を中心とした筋の衰えが著明になってきます。大腿四頭筋は膝関節を支持する筋肉でもあり、この筋肉の衰えはますます膝関節に負担をかけ痛みを助長させ膝痛の悪循環を伴うことになります。

 2.変形性膝関節症の鍼灸治療 

 鍼灸治療は膝関節の痛みを取り除くことがまず第一の目的となります。関節の変性による膝の痛みは感覚神経を伝わって脊髄に入り、それが脳に伝わり膝の痛みを認知します。この情報は、運動神経を興奮させ膝関節周囲の筋肉や血管が緊張し、血液循環が悪くなり膝関節の痛みとしてあらわれるのです。また膝関節の変形によるメカニカルな負担は膝関節周囲の筋へ異常なストレスとして痛みや違和感を伴うわけです。このような痛みに関しては、鍼灸治療、特に鍼治療が効果的であります。

 3.大腿四頭筋訓練と鍼灸治療の併用の重要性 

ハ 膝関節痛をおこすと大腿部の前面の大腿四頭筋を中心とした筋の衰えが著明になり膝関節を支持する働きが低下をきたします。このことは治療においても重要なポイントとなります。膝関節の運動療法にはパテラセッティング訓練と下肢伸展挙上訓練が代表的なものです。パテラセッティング訓練はあおむけに寝て、膝をまっすぐに伸ばし、膝の後面を床に押し付けるように力を入れ同時にふとももの筋肉に緊張を加えます。力を入れたままゆっくり5つ数えます。その後、力を抜くこれを10回繰り返します。また下肢伸展挙上訓練はあおむけに寝て膝を伸ばしたまま約10°下肢を上げます。(足先がみえる程度)上げたままゆっくり5つ数えおろします。これを10回繰り返します。楽にできるようになれば約1Kgのおもりを足首につけ運動を行うようにします。鍼治療は膝関節そのものの痛みの軽減も行いますが、これらの運動療法によって発症する筋肉の疲労や痛みなどの症状にも効果的です。これにより運動療法を痛みや苦痛なくより行いやすくするのです。