明治国際医療大学附属鍼灸センター便り  2001年7月1日

 

 鍼灸臨床の現場より  第9号


  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  

 

 大学へ

 

今据えたお灸の温度は・・

 

.「お灸」好きですか?

 お灸についてのイメージをお聞きすると、大抵の方々はあまり良い思いをお持ちではありません。勿論、お灸という言葉の中には治療的な意味合いも含まれます。しかし、真っ先に思い浮かぶのは、「お灸を据える」という慣用句ではないでしょうか。つまり、「悪いことをしたから懲らしめる」という連想を呼び起こすためではないでしょうか。懲らしめるためには、ある程度の身体的苦痛を伴わねばなりません。お灸の熱さは、まさにそれに打ってつけだったのではないでしょうか。ですから、誰に叱られるより、あの熱いお灸を据えられるのだけは勘弁してほしいということになったのだと思います。

.実測、燃焼温度

 さて、その熱いお灸。いったいどれほどの温度があるかご存じですか?一昔前、標語で「今捨てた、タバコの温度は700℃」というのがありました。それから考えると、500℃くらいはあるかな?とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。実際に温度センサーを用いて、米粒大の艾(もぐさ)が燃え尽きる瞬間の底面温度を空中で測定すると、百数十℃ほどなのです。「あら、意外に低いのね。」という声も聞こえそうですが、これには少し訳があります。肌の上で直接燃やすお灸に使われる艾は、最も上質のものを用います。これは、ヨモギを原料に、高度に精製されており、燃焼温度がむやみに上がらない様になっているからです。ちなみに極上品の艾は、ヨモギ1kgからたった5gしか採れません。ですから、値段も100gで2万円ほどします。

.お肌の上では何度なの

 実は、この温度計測が一番むつかしいのです。先ほどの値は、あくまで艾のみのもの。では、肌の上では実際何度位になるのでしょう?肌は、ご存じの通り水分を含んでます。水は熱しにくく冷めにくいという特性があります。ですから、瞬間的に百数十℃ほどの物が触れても、実際の肌が何度になったかを測定するのは難しいのです。そこで、針のように細い温度センサーを肌の上に密着させて測定しました。結果は、米粒大(底辺2.5mm・高さ5mmの円錐)の艾で約80℃、半米粒大の艾で約60℃ほどになることがわかりました。

.体感温度は別

 ところが、おもしろいことに全く同じ大きさ質のお灸を据えても、個人によって、また同一の人でも据えるツボや時々によって、温度の感じ具合は千差万別なのです。体が冷えていたり、慢性病に罹っている時など、いつもあれほど熱く感じていたお灸が、嘘のように感じなくなることもあります。このように、客観的に測定した温度と主観的に感じる温度は常に一致するとは限らないのです。奥が深いですね。

.お灸は手軽な養生法

 「熱い」「跡が残る」など、今では敬遠されがちなお灸ですが、古くは松尾芭蕉が奥の細道を訪れた折り、健脚を目的として足三里にお灸を据えていたのはあまりにも有名です。また、昭和の半ばくらいまでは、お年寄りの多くが愛用していた、きわめて一般的に用いられていた養生法でもあります。21世紀になった今、お灸のパワーを再発見するのもおもしろいのではないでしょうか。